祖父

母と祖母と連れ立って寿司を食べに行った。ひと月ぶりに酒を飲んだ。クラシック。その一杯と寿司8貫ほどですっかりご機嫌になってしまい、帰りにアイスなんかコンビニで買ったりして外気温はまだまだマイナスだってのにそれを食べてへらへら笑っていたら、ふと大きく息を吐いた瞬間に自分の口臭がかつての祖父が酔っ払った時のそれに酷似していることに気づいた。酷似なんてものじゃなくて全く同一だったと思う。まだ自分が幼児の頃、酔った祖父はよく自分を膝の上だったり横に座らせたがって、その度にあの臭いが漂ってくるから自分はだいたい拒否するか承諾したとしてもぶすくれた顔で時間が経つのを待っていた。その時の臭いが自分の口からしていた。なるほどあれは加齢臭とかではなく寿司の生臭さと酒の臭いとが混ざってああいうものになっていたのか。あれから20年経って初めてわかった。

これを書いている今はだいぶ酔いも覚めたし念入りに歯磨きもしたからもうあの臭いもしない。消えてしまうと、もうどんな臭いだったか全く思い出せない。臭いがした、という記憶は当然あるが、そこに臭いそのものの記憶は存在していない。不思議なことだなあと思う。祖父は一昨年死んだ。